くるま部

TCR Japanは後半戦へ!
<後編>
〜エンジニアの素養って?〜

2020年のTCR JAPANを戦う
大蔵選手が率いる
チーム『M-PROTOTYPING Team STILE CORSE』。

オーナーであり、ドライバーである大蔵選手が招集した
スタッフの方々。
すべて、最初から面識があったわけではありません。

メカニック、エンジニアを担当する二人は、
大蔵選手の知り合いの、知り合い。
たまたまスケジュール等のタイミングが合ってチームに合流、
そんな流れです。
レースの世界では、よくあることだそうな…。

さて、チーフエンジニアを務める市川 吉正さん。
こんなお話を聞かせてくださいました。

クールで静かなイチカワさん。

僕は大学卒業して、
たまたま運良くいきなりレースチームに就職。
それから30年以上?、ずっとこの世界です。
僕はもともとクルマというよりも「機械」が大好き。
レースで熱くなるというよりも、
構造がどうなってるのか、どんな作用が働いてるのか、
そっちのほうが気になります。
レースより、クルマという機械を見ている、そんな感覚です(笑。

このエンジニア人生でいろんな経験をさせていただきました。
この世界に入った頃はちょうどバブルでしたし、
メジャーなレースにも帯同しました。
今まで一番印象に残ってるレースは…
ある日本車メーカーのチーフメカニックとして行った
ル・マン24時間耐久です。
その頃は今ほどレギュレーションが厳しくなく、
また、クラスも少なく、
同じクラスにはそれこそポルシェからベンツをはじめとした
トップメーカーばかり。
最高時速も370km/hくらい出るんですよ。

そんなギリギリの世界でクルマを走らせるって、
それはあらゆる部分で記憶には残ります。
結局6回帯同して、最高位は6位。
トップメーカーが参戦している中で
当時としては素晴らしい成績でした。

世界と日本って、
メカニックとドライバーの関係というか役割が異なります。
どちらがエライとかそういうのではありません。
日本の場合は、
ドライバーのフィーリングや要望をメカニックが細かく汲み取り、
微調整をくり返してマシンを作っていきます。
一方で海外、特に欧米では、
メカニックはそこまで細かい要望を取り入れることはありません。
逆に、ドライバーがクルマのクセを汲み取ってテクニックで調整していくスタイル。
ピットでの会話を聞いててもその違いは結構明確です。

また、トップクラスのチームにもなるとメカニックの担当範囲も大きく違います。
海外では、
右前輪だけの担当など、徹底的な分業です。
それ以外は一切見ない。興味がない、と言ったら怒られるかな…(笑。
それほどクールに、自分の仕事をこなすプロフェッショナルです。
だけど、かなりミクロの視点ですよね。

一方、日本のメカニックは、さまざまな仕事を担当します。
あれやったり、これやったり。
いわばマルチジョブ。
だから僕から見ると、
日本のメカニックは全体が見えているし、
世界の中でも優秀だと思いますよ。

そんな背景なので、
日本のドライバーが海外のチームに入って戦うとなると、
なかなか結果が出せない。
逆に海外のドライバーからすると、
日本のメカニックのきめ細かな仕事は
まさに「おもてなし」かもしれませんね(笑。

この『M-PROTOTYPING Team STILE CORSE』は、
ほかのチームに比べて、少ない人数でやってます。
そういう意味では相当なマルチジョブじゃないでしょうか(笑。

このTCRもこの大分で4戦目。
アゲマツ監督の明るくて温かい雰囲気もあって、
コミュニケーションもとれていて、
成果に繋がってきました。

大蔵さんもこのクルマを理解して、
納得できる走りになってきているようで何よりです。
もともとアゲマツさんもドライバーとしてレースやってるメカニックなので、
僕がやることはあまりないんですが、
レースよりも機械が好き、という変なエンジニアの経験が
役に立てばと思っています。

今回、一緒にメカニックをやっているリョウヘイ君は、
僕が声をかけさせてもらいました。
一度、アジアのレースで一緒に仕事をした時に、
「あ、いいな」と思って。

写真右側が“リョウヘイ”さん。


その理由?


“ すごい心配性 ” だから。

レースメカニックに必要な資質って、
心配性で、気配りができること、だと思っています。

ポジティブというか楽観的な人間って、
ボルトを締め忘れたりとか、必ずやらかしちゃうんです。
レースの世界って、
そんなささいなミスが、本当に命にかかわりますから。

心配性の人間って、
何度も何度も確認する。だから、結果的にミスを予防しているんです。
リョウヘイ君は見た目はコワそうですが、
ほんとに心配性で周囲への気づかいは細かい。

メカニックのそういうところって、
一度現場に入るだけで見えますからね。

彼はプロのレーシングドライバーを目指していたこともあり、
ドライバー目線でも見ることができる。

リョウヘイ君みたいな人、
もっともっと重宝されていくと思いますし、
大蔵さんの心強いチームスタッフになればいいですね。




そんなイチカワチーフの信頼を受ける、“見た目がコワい?”リョウヘイさんは…。

“リョウヘイ!”と、皆から親しまれる田中 良平さん。

F1のピットにいてもおかしくないような人にお声をかけていただけるなんて、
めちゃめちゃ恐縮しています。
しかも普段は大阪でメカニックの仕事をしているので、
こうやって全国に呼んでいただけるなんて…。

もともと10歳の頃からカートに乗り始めて、
20代前半の頃には海外でも結果が残せるようになりつつあったのですが、
資金的なこともあり、断念。
しかし、10年ほど経った頃、
レース業界が諦めきれず、メカニックとして戻ってきました。
いまもメカニックをやる傍ら、やはり大好きなレースにも参加しています。

メカニックって、
確かに専門職だとは思うんですけど、
ドライバーが勝つために、
全員が同じ方向を向いてないといけないと思うんです。

いまは、大蔵さんが、いかに「気持ちよく」走れるようにするか。
これが僕たちチームスタッフの仕事です。

たとえば、ピットから出ていく時に、
Go、待て、のサインを出すのも僕の仕事なんですが、
ピットロードでレースカーが連なっている時には、
大蔵さんには絶対にGoは出しません。


大蔵さんはとても謙虚で、安全を考える人。
だから、後ろからレースカーがすぐに迫るような状況ではなく、
前を追いかけながらスタートできる「間合い」が大事。
そして、余裕を作るだけではなく、
特にタイムアタックの予選では、
コース上での先行車の位置を見ながら、
大蔵さんが、スタートしてから
速い目標車について積極的にアタックできる場所めがけてGoサインです。

このGoサインを出すために、
サーキットにあるお客様が見るための超巨大なモニタービジョンの映像をはじめ、
インカムを使って大蔵さんはもちろん、
アゲマツ監督やイチカワさんとも状況を共有します。


いや〜、
怒られずにこのGoサインが出せるようになるまで、
数年かかりました(笑。

あと、「気持ちよく」走るためには、
やっぱりチームの雰囲気って大切です。
ほかのチームではほとんどなかったのですが、
このチームは人数が少ないこともあり、
短い一つのレース期間中に、
一緒に夜ご飯を食べることがあります。
これは一瞬でも「楽しく」という思いと、
初めて合った人どうし、お互いをもっと知り、
信頼を高め合いたい…そんなアゲマツ監督の気持ちの現れだと思います。

関西出身の大蔵選手はいつもはクールなんですが、
そういう時は関西弁も出てきて、
思わず盛り上がってしまいます。

そうやって、
関わる人全員が、同じ方向を向いて
自分の仕事に責任を持って進む…

チーム『M-PROTOTYPING Team STILE CORSE』、
僕も気持ちいいです。








かかわる人すべてに人生があり、
かかわる理由がある…

そんな人の人生に、
たとえ一瞬でも寄り添っていきたい。

DOMINISTYLEは、
いろんな人とかかわることで進化していきます。




TCR Japanは後半戦へ!<前編>
〜チームの律動って?〜

著者名:

DOMINISTYLEの活動を楽しんでいただくために、様々な活動を行っています。サウナビギナーで、最近、ウィスキングに興味津々。