風呂

お風呂を彩る“職業絵師” 李惠さまの世界 【前編】

私たちホテルグループの誇り、「大浴場」。
快適さを追求する設計から、温泉気分を盛り上げる石選び、細部に及ぶ意匠…
(通称)大工さんチームのこだわりは、それはそれはハンパじゃないのでありますが。

その大浴場に、さらに彩りとストーリーを加えて下さるのが、絵師さんのお仕事。

MAPやシャッター画でもおなじみの、レタスト 田中様に続き
今回は、大工さんチームの強力なパートナーであり、“職業絵師”としての注目度も高まりつつあるアーティスト、李惠(りけい)さまをご紹介します!

今回、野乃浅草別邸の試泊会で直接お会いするチャンスをいただいたので、私 かあちゃんいんこがインタビュ~。ヒトコトで言うと、とっても素敵な方でした!(ホゥ…💛)



当ホテルグループでの李惠さまの代表的な作品は、ドーミーイン後楽園、野乃別府、ドーミーインEXPRESS豊橋、そして先月プレオープンしたばかりの野乃浅草 別邸など。

実は…近年、新棟オープンのお風呂画を目にするたび、「きれいだな~」「迫力すごっ」と、毎回目を奪われていたのですが…これらすべて同じ方が描いていると知った時は、かなりの衝撃でした。

そして取材が決まり、李惠さまの公式サイトやインスタをのぞきにいくと、これまた、まったく違ったテイストの作品の数々が…

どれも、独特の魅力がありながらまったく違った世界観。
一体、どんな人が描いてるんだろう?
なんで、ここまで色んな世界を描き分けられるんだろう…?

そんな個人的興味もつのり、ワクワクして迎えた「野乃浅草 別邸」の試泊の日。李惠さまのことは、大工さんチームにご紹介いただく段取りだったのですが…
時は1月初旬。大工さんチームは、地震で被災した「能登海舟」の仮設風呂造りに急行されており、当日は、綜合デザイン様(設計会社)のご担当者 福田さまとお2人でのご来館でした。

綜合デザイン 福田さま(左)と李惠さま(写真右)。野乃浅草別邸入り口にて。

李惠さま(以下「李」): 野乃浅草別邸ついにオープン、とっても嬉しいです!実は久しぶりすぎて本館の方に行っちゃいました(笑)

…とお茶目な李惠さま。実は野乃浅草 別邸はオープン時期がずれ込んだため、李惠さまがお風呂画を描いたのは、もう1年前とか…。

(プロの画家さんだから、気難しい方だったらどうしようとドキドキしてたけど、すごく柔らかくて優しそうな方だ💛…と勝手に心の距離を縮めつつ…)
挨拶もそこそこに、チェックインが始まる前にと、さっそく李惠さまの作品がある「男性大浴場」へ。

— わ~!写真で見るより断然、雰囲気ありますね~!

李: ありがとうございます。この近くを流れる隅田川を舞台に、渡し舟に乗って吉原方面に向かう…というシーンです。ちょうど湯舟が舟型で、渡し船に乗っているような気分になれますよね。 

— たしかに~壺湯に浸かったら川の向こうまで流れていけそう。そして船頭をつとめるドーミーいんこがナチュラルに風景に溶け込んでますね~(笑)

李: 毎回、いんこちゃんを描くの、楽しみなんです。今回はかなりわかりやすく描いたかな(笑)。左端の柳の木は、有名な“見返り柳”※がモデルです。まだ吉原に現存すると聴いて見に行ったんですが、本当にありましたよ。 

※“見返り柳” :吉原を訪ねた人は、帰り道、名残を惜しんで決まってこの柳あたりで振り返ったことから呼ばれるようになったと言われている。 

— なんと! この画のために?

李: はい。実は絵を描く準備として、下調べはかなり周到にするタイプです(笑)

— へぇぇ~そのあたり、もう少し詳しく教えていただきたいです!

壺湯の向かいの壁の画も李惠さまの作品で「茶屋の窓の柵越しに、室内の情景を眺め見る」いう図案。こちらは壁へ直接描いたものではなく、原画を特殊なシートへ転写して設置したもの。ランプのような明かりに透かされ、なんとも幻想的なムードです。

(…ということで、野乃浅草別邸 地下にある、お食事処「羽衣茶寮」へ移動…)

— 先ほど、絵を描く準備として、柳を見にわざわざ吉原を訪ねたと伺いましたが…

李: はい、自分の足でその土地を歩いてみて、その世界観を表現するということを心がけています。

— では豊橋なども…?

李: そうですね、豊橋は資料館なども含め、かなりあちこち歩きました(笑)情報としての下調べも結構するんですが、やはり行ってみないとわからないことが多いですから。その土地ならではの歴史や自然、文化に触れて、具体的な図案にしていくという感じです。

豊橋発祥の手筒花火と豊橋鬼祭の鬼という、インパクト大の壁画が印象的なドーミーインEXPRESS豊橋の大浴場。


李: ここだけの話なんですが…豊橋は工期の関係もあって「今回は墨画みたいにモノクロでやってみようか…⁉」と描いてみたら、逆に迫力が増してイイね!ということになり、それ以来、モノクロのお風呂画もレパートリーとなりました。

— 狙った以上の効果を引き出せたんですね。
ところで、李惠さまのお風呂画はどこから始まったんでしょうか?

李: 実は私自身の初めてのお風呂画が、ドーミーイン後楽園です。これまでお店の壁などには描いていましたが、常に水がかかる場所ということで、油性ペンキでのチャレンジ。細かい話ですが、うすめ液もシンナー系のものしか使えませんから、かなり勝手が違い、試行錯誤しながら完成させた、思い入れが深い作品です。

— お風呂画デビューが後楽園だったとは、なんだか嬉しいです。

こちらの画は、やはり後楽園近辺…? あっ観覧車がありますね!

[ドーミーイン後楽園 男湯]あらためて、『ペンキって、こんな繊細な画が描けるんだ…!』とまじまじと見てしまいます。次は描いてところを見に行きたい!

李:「小石川後楽園」の池から後楽園遊園地の方を望んだ風景ですね。ここ、入ったことあります?歴史的な日本庭園の池の向こうに目をやると、観覧車やドームといった近代的な建造物が見える、不思議な風景なんです。

— あります!わかります~!確かに、すごく不思議な光景でした!

李:この松の木も庭園の中に実在しています。春は桜も綺麗ですし、とても癒される、私自身とても好きな庭園です。

[ドーミーイン後楽園 女湯] こちらは同じ小石川後楽園の「桜」がメインの春の光景🌸

— そして富士山…

李:あ、すみません、富士山はだいたいのお風呂画に入れてるんですが、方角と大きさは若干?デフォルメです。やはりお風呂なので富士山は欲しいかな…という(笑)

— なるほど(笑)
ところで、「お風呂画が出来るまで」について教えていただきたいんですが…
まず、それぞれの図案ってどうやって決めるんですか?

李:御社ホテルの場合、まず綜合デザインさんから「例えばこんなイメージで」といったお題のラフスケッチをいただくんです。

—おお!これまた味わい深いイラスト。

李:そうなんです、素敵ですよね~
で、このスケッチをベースに、私がその土地の文化などを調べ…

—実際に足でも歩いて!

李:はい(笑)  このモチーフを入れよう、こんなものも取り入れたらいいかな?など、だいたいイメージがかたまったところで、下絵を描いていきます。

—下絵は何枚くらい描かれるんですか?

李:頭の中で考えが纏まるまで手をつけないのですが、実際下絵を描くのは、ほんの数枚です。
その中で1枚だけ選んで提出します。
これ!と思った時は、下絵も1枚しか書きません。

— 大工さんチームとの息もぴったりなんですね~

李:私がイメージしやすいよう、上手にリードして下さるおかげです。それでいて、ポイントをおさえていれば、あとは私の自由に任せて下さるので、とても楽しく描けるんです。

(ここで綜合デザインのご担当者 福田さま登場~)

福田さま(以下「福」):いえいえ!李惠さんみたいに、こちらのオーダーをしっかり、かつ柔軟にくみ取ってカタチにして下さる方って、すごく希少で。私達にとっては、ものすごくありがたいんです! ムチャぶりにも応えて下さいますし…

綜合デザイン 福田さま(写真右)

— それは私達ホテルにとっても、ものすごーーーくありがたいです!
ええと…ムチャぶりの内容についても差し支えなければ…(笑) 

李:えーと(こんなこと言っていいのかしら…)例えば豊橋では「明日から行ける~?」「ついでに看板に湯号も書いてよ!」とか?(笑) 

福:その節は、申し訳ありません~っ

李:ちがうんです、そんなムチャぶりも、この方々からの依頼なら受けて立ちます!という気持ちですと言いたかったんです(笑) 尊敬できる松鵜棟梁、川筋さん、そして細やかな配慮をして下さる福田さん…素晴らしい方々に恵まれ、様々なチャレンジをさせていただいているなあと。

実は、「書」に関してはムチャぶりではなかった説!?というのも李惠さま、書道教室の先生でもあるのでした…!

— すごい信頼関係なんですね~(しみじみ)
話戻りまして…下絵が出来た後は、もう直接壁に描いちゃうんですか?

李:そうですね、ざっくりアウトラインを描いたら、あとは迷わず描きこんでいきます。二次元のキャンバスに描く画との違いとしては、例えば、洗い場から見たらこうだけど浴槽に浸かって見たらどう見えるかな?とか、色々な角度からの見え方を想定して描く、といったところでしょうか。

 — なるほど、あくまで「大浴場」という空間をトータルで考えて描いていただいているんですね。(確かに…さっきの壺湯もそういうことか~!)
描き始める時は、緊張したりするんですか?

李:それが不思議と緊張はしないんです。下絵にするまでは緻密につめていくんですが、描くときは結構大胆かも。その場に立つと、完成図が自然と頭の中に浮かび上がってくるので、そのイメージをそのまま映し出す感じ? なぜか、絶対うまくいく!と思っています(笑)

— (カッコイイなぁ~)
ちなみに、今までで一番印象に残っている現場って、どこですか?

李:やっぱり野乃別府でしょうか。貸切露天風呂の壁360度ぐるっと一面に、別府湾を一望するような風景を描く、という試みで、それ自体がなかなかのチャレンジだったんですが、なにしろ期間中ずーっと台風で、ハプニングも多くて! 

★つづきは【後編】へ・・・!

著者名:

仕事と子育てと家事に翻弄されつつ日々を楽しく過ごす「かあちゃん」いんこ。息子たちとの行き当たりばったり、ゆるめの“ドーミーイン巡り"がライフワーク(?)です。