下町歴史部

やっぱり銀座は特別。
<後編>
『築地から銀座へ出勤?』

さて、銀座だけではなく、金座もあったと教えてくださった田中教授。
今日はそんな銀座の思い出旅へ…

やっぱり銀座は特別。<前編>
『銀座は残り、金座は消えた……』





銀座のひとつの風景に和光の時計塔がある。
およそ90年、そのまゝの姿を保っている四丁目のシンボルは、
昭和7年(1932)に完成している。
老舗ぞろいの銀座通りの中で、
道行く人は時計塔を見上げ、
訪れるすべての人々をもてなす存在として、
竣工した当時から1分のずれもなく時を刻み、
当所ドイツ製の振り子式は、
技術向上に合わせてクオーツに。
高精度な時刻修正機能で時を告げるが、
私のような古い世代は「服部時計店」と
つい口に出ることがある。


銀座生れの服部金太郎さんが、
明治27年(1894年)に四丁目の角に店を構えた。
現在のビルは二代目、大正10年から
関東大震災を挟んで10年余りの工事のすえ完成した。
設計者・渡辺仁は日劇も手がけるモダン建築の先がけだった。


ここで「クイズ」
“和光ビルは何色でしょう?”


「ネズミ色に決まってるヨ!」


いいえ、天然石が醸し出す“ピンクグレー”。
じっくり目を凝らせて見れば、
三越・リコー・ニッサンに囲まれた四丁目交差点に浮かぶ奥床しさ……。


別の楽しみに、
私がエッセーを書いている月刊「浅草」の同人誌「銀座百点」がある。

右が「銀座百点」。左は、田中教授も寄稿する「月刊浅草」。
判型は同じですが、用紙のタテ使いが「月刊浅草」(左上)、横使いが「銀座百点」。


PR誌の先駆けは銀座の顔でもあるが、
私が感心するのは、
広告と云う媒体を主役に位置づけた発想、
素晴らしい写真で読ませる独創性が魅力である。
内容から価格も我誌の倍以上とあっては当然……と云うのは当らない。
発行人は洋服屋のご主人と聞くが、
センスの良さは極立っている。
発想に思案し、締切を意識する日が近づくとき、
銀座に出てその一冊を手にすれば、
脳内は一新されアイデアが湧いてくる。



――通い馴れた街になった銀座、
昭和55年頃であったが、
“此処に住んだらどうなるか?”

当時は身の程知らずの発想だったが、
時代は令和に移り、
ドーミーインが新時代の感覚を先取りして、
『住むホテル』として新タイプの客室を提供する取組を始め、
その発想に驚いているが、
更に銀座にもホテルが出来ると知り、
楽しみが増えている。

当時、八丁目の並木通りにオープンしたホテルの一室を
執筆用として仕事場にした。
ところが住んでみると、快適だがデザインには机や照明に無理がある。

「書籍か何かで“銀座らしいレタリングを”という依頼で作成したもの。今でもどこかで使われてるかもしれないねぇ」

東銀座の歌舞伎座を渡った東劇裏のマンション一室に工房を構えた。
銀座へ数分の築地四丁目、
眼下に日本画家の伊東深水、花抑流家元、
芥川賞直木賞の発表でマスコミを賑わす「新喜楽」が築地風情を醸している。

浅草で打合せて築地工房で仕上げる。
当時はタフだった。
ウエストやパウリスタでアイデアをまとめれば、
仕事は明け方まで没頭、東の空は白み始めれば築地場外へ。
今はオリンピックの駐車施設となり、市場は晴海に移ったが、
当時は東京の台所として活況を呈し、
寿司清などが朝5時から店を開けていて、
仕事明けのビールを“グイッ!”とあおり、
極上ネタが仕事のご褒美。
横には六本木辺りから流れてきた、
ツケまつげか半分ずれたおかまちゃん。
こちらは朝一番、寿司ネタ仕入の長靴(ちょうか)のオッサン。

人生の縮図を見るような
東京ならではの光景こそが特上ネタであった。
マンションに戻り、
仮眠して仕事を届ければ何やらムズムズ……。
忙しいのを承知でデパートガールにモーションかけたり、
良きも悪しきも分刻みに追込むベラ棒な生き方が楽しかった。



――気がつけば、銀座の女性は雲を散らし、
今や孫娘相手にお絵描きゴッコ。
銀座遊び人の成れの果てである。


<文・写真 田中けんじ>







金座からはじまり、銀座へ。

いかがでしたか?

そういえば、田中教授がこんなことを教えてくださいました。

日本の画家・随筆家として名高い木村荘八さんという方がおられます。
田中教授が「出で立ち」にまで強く影響を受け、敬愛する
永井荷風先生の傑作のひとつ「濹東綺譚(ぼくとうきたん)」の挿絵を描いたことでも知られるのですが、
木村さんが編集された「銀座界隈」(1955年発行)という書籍があります。
その別冊「アルバム・銀座八丁」というのが素晴らしく、
銀座一丁目から八丁目まで、中央通りに面するすべての店舗写真を撮影し、
連ねた作品なんですって。
縦は18センチほどですが、
じゃばら折りになっていて、広げると全長4.5メートルになるそうです。

今では古書店でも手に入らないものだそうですが、
一度広げて見てみたいものですね。
60年以上も前の銀座を、ゆっくり散歩してみたい…

左上に和光、右下に銀座三越。ちょうと間の帯んびあたるのが中央通りという感じで右奥の二丁目へ続く…。ってことは、写真の左側に銀座四丁目交差点。
木村荘八さんによる序文。




著者名:

DOMINISTYLEの活動を楽しんでいただくために、様々な活動を行っています。サウナビギナーで、最近、ウィスキングに興味津々。